言いながら、タキオは喉元を狙って伸びてくる糸を避け、後ろへ跳んだ。 と言っても、周囲の空間を埋める糸が着実に増えていく中、もうどこへ避けても糸に触れないのは不可能だ。

 避けた拍子に触れた糸が、一呼吸おいて、絡みついてくる。完全に絡まれる前に引き千切ると、たちまち生気を失くし、手から垂れ下がる。
 蜘蛛の糸はあくまでナギに操られているに過ぎないこと、ナギから離れれば力を失うことを確認したタキオは、猛然と糸の帳を破壊し始めた。 負けじとナギも糸を吐いてくる。

 そこへ、むしろ糸を切るは己の方が適任だと気づいたのか、オズマが刀を振り乱し、飛び込んできた――
 否、違った。ニィナに追い詰められただけだ。それでもタキオにとっては、ニィナ相手の方がずっと戦い易い。 オズマを蹴って弟の方へ押しやると、身を屈め、姉の腹に拳を喰らわせた。 彼女の細い体を真っ二つにしかねない威力だったが、ニィナは交差させた二挺の銃でそれを受け止め―― 勿論、銃の方は粉々になったが――  後ろへ吹っ飛んだ。糸に受け止められた彼女を追って跳躍し、脳天へ踵を落とすが、それもサーベルに阻まれる。 そのまま他の腕がこちらを捕らえようとする気配を感じたタキオは、右腕の使鎧の隙間から丸薬を取り出し、彼女に投げつけた。

 叫ぶニィナの目の前で、もうもうと白煙が噴き出す。あっという間に、周囲は、濃霧に包まれたかの如くになる。

 彼らにどれだけ目玉があろうとも、視界がゼロになれば無意味だ。
 タキオはニィナを足蹴にし、一段高い空間に張られた糸の層へ飛び上がった。

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