『ボス、さっきの話は本当か?』

 血の代わりにガラス片が血管を駆け巡るような痛みの中で、トマは頷いた。ああ、と答えたくても、声が出ない。 どのみち声に出さずとも、ライフルのスコープに、この無様な姿は映し出されている筈だ。

 トマには、彼の気持ちが容易に想像出来た。レッドペッパーを結成する前、極秘で引き受けたこの任務のことを、彼は仲間たちに話したことがなかった。 わざわざ話す必要はないと思っていたし、出来るなら、永遠に話さないでいたかった。

 裏切られた気分だろう。人前には出られぬが、国家安保を担う、名誉ある職務。その筆頭として活躍してきた誇り。 その誇りを率いてきた、尊敬と信頼厚きリーダー。そうではなかったのか。

 日は差さずとも己の矜持が照らす道を、共に歩んできたのではなかったのか。

『そんなこと、今はどうでもいいだろう!』

 ヒヨが怒鳴るが、そんなことは、多分、グレオ自身が胸の内で呟いているのだ。

 それでも咄嗟に、ライフルの引き金が引けない。アリオが撃てない。トマを助けられない。彼の同情と戸惑いと義憤が、邪魔をして。

『テクラが聞いたら、どう思うだろうか……』

 グレオは呟いた。

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