そこへ、アリオが襲いかかってきた。
 後ろから肩を押され、アイもろとも、ヒヨは落ちかける。
 その手を、再びライフル弾が撃ち抜く。
 しかしアリオは獣のような咆哮を上げ、止まらない。

 血で汚れたメガネ越しに、トマは、アリオの目を見た。白目が真っ赤になった目を。

『射殺するしかない!』

 と、グレオが叫ぶ。

「いや、待て」

 トマは息を吸った。足の下から重力に引っ張られ、内側から毒にめった刺しにされる体は、それだけでもう、力を失いそうだ。
 が、ここで俺が死ねば、とトマは、霞む意識の中で思った。ヒヨもアイも、助からない。グレオと話すことも出来ない。 テクラにも、二度と会えない。

 そして、こいつに罪を償わせることも、出来ない。

 渾身の力で、トマは己の体を引っ張り上げた。引っ張り上げる勢いそのまま、前方へ空中回転した。 振り上げた踵を、アリオの頭へ、振り下ろした。

「がっ……!」

 今度こそアリオは昏倒し、前のめりに倒れた。

 彼の体の上にもんどりうったトマは、すぐさま起き上がり、ヒヨとアイに手を貸す。 吸ったのが少量だったせいか、体も毒の痛みに慣れてきて、何とか動けるようになっている。 二人を安全な場所まで引っ張り上げると、無線機に向かい、尋ねた。

「毒の噴出装置と水晶の瓶が落ちていった場所は分かるか」

『ああ、途中までは追えた。大体分かると思う』

「頼んだ」

 ヒヨにこの場の後始末を任せると、彼女が止めるのも聞かず、口元にスカーフを巻き、トマはふらつく体でオーツを降り始めた。

 噴出装置と瓶を回収し、解毒薬を作って流さなくてはならない。一刻も早く。己の罪の犠牲者を、一人でも多く減らす為に。

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