「ユーラク政府秘書室室長を務めております、小志摩(コジマ)と申します。以後お見知り置きを」

 そう言ってミトに頭を下げたのは、あまり目立たない印象ながら、むき出しになった額が知的な、葡萄色のスーツがよく似合う女性だった。

 ミトは「よろしく」と言って微笑み、ユーラク領主の執務室を見渡した。美しい模様の絨毯や、優雅な女神を画いた油絵、鬼百合をモチーフにしたランプなど、政務を行う場所とは思えない、センスは良いがいかにも金のかかった内装だ。

「彼らしい部屋だね」

 微苦笑しながらミトは言い、ベルベットの椅子を撫でた。

「……彼はもう、『女王』のところに?」

「はい」

とコジマは答えた。

「三日前に正式に領主職を辞任され、昨日、『女王』の元へ向かわれました。私がお見送りさせて頂きました」

「そう…… どんな様子だった?」

「ずっと無言でいらっしゃいました」

コジマは簡潔に答えた。

「冷静な、まるで迷いのない態度でしたが、精神的にかなり参っていらっしゃるようでした。重度の鬱状態だったと思います」

 ミトは僅かに眉を上げ、コジマを見た。

「……君は随分、ムジカのことを理解していたようだね」

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